2024年3月9日发(作者:神秘谷)
走れメロス(快跑! 梅洛斯)
太宰治
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければ
ならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、
羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
梅洛斯勃然大怒。决心一定要除掉那个阴险狡诈,暴虐成性的国王。梅洛斯虽然不懂
政治。他是一介村夫。吹着笛子,靠着放羊来过活。但是对于邪恶,他要比常人敏感一倍。
きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此(こ)のシラク
スの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二
人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿(はなむこ)として迎える
事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝
宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
今天凌晨,梅洛斯从村子出发,翻山越岭,来到了距离十里之外的希拉库斯市。梅洛
斯没有父母与妻室。和十六岁的内向的妹妹在一起生活。梅洛斯的妹妹和村里的一个诚实
耿直的牧人将会在不久之后举行婚礼。因此梅洛斯为了给妹妹准备新娘的礼服与庆宴的酒
席而来到了遥远的城市。
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬
の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行
くのが楽しみである。
买了各式各样的礼物之后在市中心闲庭信步。梅洛斯正打算去拜访塞里努迪斯,这是
一个在希拉库斯市做着石匠的挚友。因为很久没碰头了,所以梅洛斯非常的高兴。
歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう
既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかり
では無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。
梅洛斯一边走着,感到街上的样子怪怪的。死寂般的沉静。虽然已经是日落了,街上
的灰暗也是理所当然的,但总觉得并不是黑夜的缘故,而是整个城市都沉寂万分。一向冷
静的梅洛斯也渐渐不安起来了。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、
夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈(はず)だが、と質問した。若い衆
は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺(ろうや)に逢い、こんどはもっと、
語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶ
って質問を重ねた。
梅洛斯在路上遇到了一个年轻人,便询问道“两年前我来到这里的时候,即便在晚上
大家都唱着歌,热热闹闹的,这到底是发生了什么?”年轻人摇摇头不作声。不久又遇到
了一位老人,这一次梅洛斯更加强烈得质问道,但老人还是不回答。梅洛斯两手摇动着老
人的身体重复的质问。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣(よつぎ)を。そ
れから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、
賢臣のアレキス様を。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。この
ごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひと
りずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されま
す。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、メロスは激怒した。「呆(あき)れた王だ。生かして置けぬ。」
老人顾忌到周围,微微的说着:
“国王杀人了”
“为什么呀”
“国王心术不正,无论对谁都存有邪念”
“已经杀了很多人吗?”
“恩,先是国王的妹夫,再是王子和皇妹,之后又杀了侄子、皇后、以及忠臣阿莱基
斯大人”
“太可怕了,国王疯了吗?”
“不是疯了,而是不再信任别人了。这段时间对于家臣都是心存疑虑,有人过的少许
阔气些了就要命令将其拘禁。如有抗令,则诛之。今天已经杀了六个人了。”
听了之后梅洛斯暴怒:真是个愚蠢的国王,决不能让其肆意妄为。
メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいっ
て行った。たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏に捕縛された。調べられて、メロス
の懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に
引き出された。
梅洛斯是个单纯的男子。背着礼物,就踱步朝着皇城而去。转眼间他就被巡逻的士兵
捆绑住。并由于从他的怀里搜出了一把短剑,而引起了轩然大波。梅洛斯被带到了国王跟
前。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれ
ども威厳を以(もっ)て問いつめた。その王の顔は蒼白(そうはく)で、眉間(みけん)
の皺(しわ)は、刻み込まれたように深かった。
「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」王は、憫笑(びんしょう)した。「仕方の無いやつじゃ。おまえに
は、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁(はんばく)した。「人の心を疑うのは、
最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人
の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴
君は落着いて呟(つぶや)き、ほっと溜息(ためいき)をついた。「わしだって、平和を
望んでいるのだが。」
“这把短刀你准备用来做什么?快说!”暴君迪奥尼斯以沉静带有威严的口气盘问道。
国王眉间的皱纹就象是被人刻上去那样的深深印在了他那苍白的脸庞上。
“要从暴君的手上拯救城市。”梅洛斯豪不畏惧的回答道。
“就凭你吗”国王冷笑着说“真是无药可救了,你根本就不懂本王的孤独。”
“胡说”梅洛斯怒不可遏的反驳道“怀疑人们的真心那是最可耻的行为。国王居然会
怀疑人民的忠诚。”
“怀疑也是正常的思想准备。教本王这个道理的也是你们这些人啊。人的心是得不到
承诺的。人类本身就是拥有私欲的群体。是无法信任的”暴君小声嘟囔着,又叹了口气“其
实我也是希望和平的。”
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。「罪の
無い人を殺して、何が平和だ。」
「だまれ、下賤(げせん)の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どん
な清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだっ
て、いまに、磔(はりつけ)になってから、泣いて詫(わ)びたって聞かぬぞ。」
「ああ、王は悧巧(りこう)だ。自惚(うぬぼ)れているがよい。私は、ちゃんと
死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは
足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三
日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日
のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
“和平?为了什么?难道是为了自己的地位吗?”这一回梅洛斯嘲笑道“杀害无辜
者,算得上和平?”
“住口,贱民。”国王突然抬起头大喝一声“再美妙的东西,用嘴说说也容易吧。倒
是你马上就要被我用长矛处死,可别哭着求饶啊。”
“哈,陛下还真是通晓人心啊,我已做好了赴死的准备,绝对不会企求活命的。只
是……”梅洛斯突然视线落到了脚边,踌躇着说“只是……我只想请求陛下在处刑之前给我
3天的期限。我想给妹妹办完婚礼,3天之内我一定会回来的。”
「ばかな。」と暴君は、嗄(しわが)れた声で低く笑った。「とんでもない嘘(うそ)
を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守りま
す。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を
信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の
無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目
の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そう
して下さい。」
“真是荒唐啊。”暴君用嘶哑的声音低声笑着。“不要说这些不着边际的谎话,逃出
去的小鸟难道还会飞回来吗?”
“是的,会回来的。”梅洛斯固执己见的说道。“我会遵守约定。我只需要3天。妹
妹在等我回去。在这个城市里有一个叫塞里努迪斯的石匠,他是我唯一的朋友。如果你这
么不相信我的话,就把他作为人质。如果我逃走了,3天之内都没有回来的话。就请将我
的朋友绞死。拜托了。”
それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。生意気なこと
を言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙(だま)された振り
して、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味が
いい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に
処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩(やつばら)にうんと見せつけてやり
たいものさ。
国王听了之后,歹毒之心油然而起:又在自以为是的吹嘘了,反正你也一定不打算再
回来的。我就将计就计,假装被你欺骗,这样也满有趣的。3天之后能够处死那名替罪羊
倒也是件畅快的事。看来,人类还真是不值得相信啊,那好吧,既然如此我就装作伤心地
将那名替罪羊处以极刑。也正好想给那些所谓正直的家伙们好好的看看。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。
おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪
は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
メロスは口惜しく、地団駄(じだんだ)踏んだ。ものも言いたくなくなった。
“你的请愿,本王了解了,那就叫他来代替你吧。你只要在第3天的日落之前赶回。
如果晚了,那个替代者是必死无疑。当然稍微晚点也是可以的,不过到时你可就要永远的
背负着罪名了哟。”
“你,你说什么?”
“哈哈,这是性命攸关的事啊,来晚了可就表明你的用心了哦。”
梅洛斯捶胸顿足深深悔恨,就连话也不想说了。
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。暴君ディオニスの面前で、
佳(よ)き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。メロスは、友に一切の事情を語った。
セリヌンティウスは無言で首肯(うなず)き、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間
は、それでよかった。セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。
初夏、満天の星である。
塞里努迪斯在深夜被召令到皇城。在暴君迪奥尼斯的面前,两个好友经过了两年又再
次重逢了。梅洛斯将一切都告知后,セリヌンティウス默默地点头表示首肯,梅洛斯深深
地拥抱了他。挚友之间只需如此。塞里努迪斯被捆绑住之后,梅洛斯马不停蹄的就出发了。
在初夏的夜空,闪烁着点点繁星。
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌(あ
く)る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。メロ
スの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。よろめいて歩いて来る兄の、
疲労困憊(こんぱい)の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。また
すぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗(きれい)な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の
人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
那个夜晚,梅洛斯一会都没合过眼,就急匆匆的赶了十里路,到了村里已经是第二天
的上午了。艳阳高照,村民们也已经开始了田里的工作。梅洛斯那十六岁的妹妹今天在代
替哥哥放羊。当她看到疲惫不堪的哥哥正步履蹒跚的走来时,着实地吃了一惊。于是喋喋
不休地盘问哥哥到底怎么了。
“没什么啦”梅洛斯勉强作笑的答道“城市里还有点事情,不得不又要早些赶去。明
天就举行婚礼吧。越早越好。”
妹妹的脸颊被说得红红的。
“开心吧。我给你买了漂亮的衣服。好,我这就去告诉大家,婚礼就在明天。”
メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を
調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
梅洛斯一会又出门,一会又回来装饰祭坛,准备酒席。不久就倒在床上呼呼大睡起来
了。
眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少
し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の牧人は驚き、それはいけ
ない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄(ぶどう)の季節まで待ってくれ、
と答えた。メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してた
のんだ。婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。
一觉醒来已经是夜晚了,梅洛斯即刻就去拜访新郎,请求道:“因为我还有少许事情
缠身,所以请把婚礼放在明天吧。”新郎听后略感意外地回答“这可不行啊,我们还没有
任何准备呢,就请等到葡萄成熟之际吧。”“我不能等了,请无论如何定在明天”梅洛斯
又进一步地强求。新郎顽强得很,就是不肯答应。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、
ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席してい
た村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い
家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺(こら)え、陽気に歌をうたい、手を拍(う)った。
メロスも、満面に喜色を湛(たた)え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。
争论一直持续到了黎明,终于梅洛斯连哄带骗的将新郎说服。婚礼就在晌午举行。新
郎新娘刚完成对神灵宣誓的之时,天空即乌云盖顶,滴滴答答地下起了雨,不久就变成了
倾盆大雨。来祝贺的各位乡亲们总感觉有些不祥之意。但即便如此,各位依然振作心情,
在狭窄的屋子里,忍受着闷热,朝气蓬勃的唱歌,拍手。梅洛斯洋溢着满脸的笑容。许久,
甚至连与国王的约定都要忘了。
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしな
くなった。メロスは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮
して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ
事である。メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
宴席进入了晚上愈发地喧闹,大家已将外面的滂沱大雨完全抛至脑后。梅洛斯真想永
远住在这里和大家一起生活。可现在身体也已经不属于自己。无法再随心所欲。梅洛斯终
于鞭策了自己,决意出发。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに
出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家
に愚図愚図とどまっていたかった。メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは
在る。
到明天日落之前还有足够的时间。梅洛斯想小睡一会之后随即出发。这时雨也变小了,
真想在这里多呆一会。象梅洛斯这等男子也无不留有眷恋之情啊。
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が
覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえ
には優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらい
なものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。
亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。
おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
梅洛斯朝着似乎还沉浸在今夜的快乐中,微微有些发愣的妹妹走去。
“恭喜你了,不过真的很抱歉,我有些累了,想去睡会,一觉醒来就要赶去市里处理
些重要的事情。现在你已经有了一个温柔体贴的丈夫,所以即使我不在,你也决不会感到
寂寞了。你哥哥最讨厌的东西就是怀疑和撒谎。这点你也是知道的。所以你和你丈夫之间
可不要有什么秘密啊。我想对你说的,也就是这些了。你的哥哥可是很了不起的哟,所以
你也要持有这份荣耀。”
花嫁は、夢見心地で首肯(うなず)いた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、
何も無い。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」
花婿は揉(も)み手して、てれていた。メロスは笑って村人たちにも会釈(えしゃ
く)して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
新娘精神恍惚地点点头。梅洛斯随后拍着新郎的肩膀,
“我们互相都没有准备什么东西,我的宝物只有一个妹妹和一群羊,其他什么也没,
全部都给你了。有一点你要记住,你现在已经是我梅洛斯的弟弟了,你要以此为荣。”
新郎搓着手有点害羞。梅洛斯笑着与村人们点头回忆,便离开宴席而去,一头钻进羊
窝里,死睡过去。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、
いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑っ
て磔の台に上ってやる。メロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りに
なっている様子である。身仕度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振っ
て、雨中、矢の如く走り出た。
睁开眼睛已是翌日的黎明时分。梅洛斯猛地跳起身来。糟糕,睡过头了吗?不,还不
要紧,现在立马就出发的话,足以赶得上约定的时限。今天一定要让那个国王见识到人类
的诚实。然后笑着走上死刑台。梅洛斯悠闲地打扮了起来。雨也下得小了。梅洛斯打扮完
了之后,大副地挥了挥手臂,在雨中如离弦之箭般的冲了出去。
私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。
王の奸佞(かんねい)邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、
私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いメロスは、つらかった。
幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止(や)み、日は
高く昇って、そろそろ暑くなって来た。メロスは額(ひたい)の汗をこぶしで払い、こ
こまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い夫婦になるだ
ろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き着けば、それ
でよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気(のんき)
さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。
我今晚就会被杀死。我为了去赴死而要快跑。为了救出我的朋友而要快跑。为了打破
国王的奸佞邪智而快跑。必须要快跑。我将被杀死。这是我从以前就必须要守护住的名誉。
永别了!我的故乡。年轻的梅洛斯非常地痛苦。不知有多少次想要止步。但总是一边唉、
唉地大声斥责着自己一边向前跑去。走出村子,横越原野,穿过森林,到达邻村的时候,
雨已经停了,太阳高挂,渐渐热起来了。梅洛斯挥了挥额头上的汗,到了这里的话就不要
紧了。事到如今对故乡已不在有任何留恋。妹妹他们一定会好好生活吧。现在我应该也无
需再有任何牵挂了。只要径直朝向皇城而去就可以了。梅洛斯天生从容的性格,使他感到
也无需这么着急,唱着喜欢的短歌,悠闲地走着。
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧
(わ)いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨
で山の水源地は氾濫(はんらん)し、濁流滔々(とうとう)と下流に集り、猛勢一挙に
橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵(こっぱみじん)に橋桁(はし
げた)を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、
声を限りに呼びたててみたが、繋舟(けいしゅう)は残らず浪に浚(さら)われて影な
く、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メ
ロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮
(しず)めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時
です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い
友達が、私のために死ぬのです。」
梅洛斯悠闲自得的行走了两三里路,差不多快到达半程的时候,梅洛斯顿时停住了脚
步,灾难从天而降。看!前方的大河,由于昨天的暴雨,山上的水源地泛滥了,浊流滔滔
地涌向下流河域,其凶猛之势一举将过河的桥也破坏了,哗哗涨起来的激流,把桥身冲了
个稀巴烂。梅洛斯呆若木鸡地站着,时而向四处眺望,又声嘶力竭地呼喊着。可河面上的
小船像是被巨浪不留痕迹般疏浚地无影无踪,根本就看不见渡船人的身影。河流愈发地猛
涨,已似大海一般。梅洛斯蹲在岸边。一边号啕大哭着举起手向宙斯神哀求道“请帮我平
息这狂暴的激流吧。时间正在分分秒秒地过去,现在也已经是晌午,在太阳没有落下之时,
我若无法赶到皇城,我的好友就会为我而死啊。”
濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、
捲き、煽(あお)り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。
泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、
いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにの
た打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ
渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻(か)きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅
子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれ
た。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。あ
りがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一
刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸を
しながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り
出た。
浊流像是在嘲笑梅洛斯般的越发的狂舞。巨浪吞噬着巨浪,时而煽动起并卷滚着。时
间在一刻一刻的过去。此时的梅洛斯也觉悟到除了游过去,别无他法。啊!请诸神明鉴,
我现在正要发挥出这不输浊流的爱与诚实的伟大力量。扑通一声!梅洛斯跃身跳入了滚滚
激流之中,与似如百条大蛇般的巨浪展开了殊死搏斗。他将全身的力气都注入在双臂上,
拼命地拨开拖有旋涡的河水。可能是连神灵都对这样杂乱无章而拥有迅猛之势的身姿产生
了一丝伤感。终于垂下了怜悯之情。梅洛斯被水流冲着顺利地靠住了对岸的一根树干。真
是谢天谢地啊。梅洛斯如马一般的打了一个剧烈的寒战之后,又迅速的向前方行进。现在
即使是一会儿都不能再浪费了。太阳已经向西方倾斜了。他气喘吁吁的爬上了山口,刚松
了一口气,突然眼前跳出了一群山贼。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれて
やるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」
「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒(こんぼう)を振り挙げた。メロスはひょい
と、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者の
ひるむ隙(すき)に、さっさと走って峠を下った。
“站住!”
“你们要做什么?我一定要在太阳落下之前赶到皇城。放开我。”
“那个不行,快把你身上的东西都交出来。”
“我身上除了一条命什么都没有了。而那仅有的一条命这也是去献给国王的。”
“我就要你的命。”
“原来是国王命令你们在这里埋伏我的呀。”
山贼们一声不发就一齐挥舞起棍棒。梅洛斯轻巧地弯曲着身体,象飞鸟似地扑向了身
边的一人,夺取了他的棍棒,
“为了正义,对不住了!”刚说起,便猛然一击,一会工夫就将三人打倒在地,趁着
其他人正在惶恐之际,快跑着下了山。
一気に峠を駈け降りたが、流石(さすが)に疲労し、折から午後の灼熱(しゃくね
つ)の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈(めまい)を感じ、
これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと
膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、
あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天(いだてん)、ここまで突破して来た
メロスよ。真の勇者、メロスよ。
一口气下了山,的确是非常的累,那时正逢午后灼热的太阳迎面而来,火辣辣地照射
下来,梅洛斯几度感到头晕目眩,这可不行啊,梅洛斯重整旗鼓,又踉踉跄跄地跑了两三
步,终于,一屁股坐在了地上,无法站立起来。他仰着天,悔恨万分地哭泣起来。啊,穿
越激流,打倒3个山贼快速逃跑,一路突破抵达此地的是我梅洛斯,我梅洛斯是真正的勇
者。
今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえを信じたば
かりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代(きたい)の不信の人間、まさ
しく王の思う壺(つぼ)だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎(な)えて、もはや
芋虫(いもむし)ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲
労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐
(ふてくさ)れた根性が、心の隅に巣喰った。
可现在到了这里竟然累得无法动弹,真是可悲啊。我那可爱的朋友,只因为相信于你
这家伙,不久就将被杀害,你正如国王所料是个绝世大骗子,梅洛斯就这样一直自责道,
但全身依然无力,象只小虫一样地无法前进。他倒在路边的草地上滚躺起来。无论如何都
够了,这种与勇者不相匹配的怄气的性格,正盘踞在梅洛斯心灵的角落处。
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私
は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無
い。ああ、できる事なら私の胸を截(た)ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛
と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な
時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の
一家も笑われる。私は友を欺(あざむ)いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしな
いのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れな
い。セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。
我的努力也只能到此刻为止,我丝毫没有要打破约定的心意。有神灵明鉴,我可是拼
尽全力来到这里。直到跑不动为止。我也并非是无信之徒。啊!如果允许的话我宁愿割开
胸膛,让你看看我血红的心。真想让你看看这流动着爱与诚实的心。但在这重要时刻,我
却精疲力尽。我无奈是一个不幸的男人。我一定会被取笑。我的全家都会被取笑。我欺骗
了朋友。中途倒下的话,就等于一开始什么也没做。啊!够了,这或许就是我的命运吧。
塞里努迪斯啊,原谅我吧。你总是信任着我。
私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだっ
て、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に
待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、セリヌンティウス。よくも
私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん
誇るべき宝なのだからな。セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、み
じんも無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。
山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。私だから、出来た
のだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。
我也不会欺骗你。我们是真正的朋友。黑暗的疑虑之云在我们心中一次都没有停留过。
即使现在,你也在真诚地等待着吧。是在等待着吧。セリヌンティウス感谢你能够总是给
予我信任。一想到这些就让我难以忍受。因为朋友间的信任是这个世界最值得夸耀的宝物
呀。塞里努迪斯啊!我是跑过来的。绝对没有欺骗你的。相信我!我匆匆赶来这里。突破
了激流,也从山贼的围困中顺利逃脱,一口气飞奔下山来到这里。因为是我,所以才能够
做到。所以别这样高高地望着我。放过我吧。
どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。王は私に、ち
ょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれる
と約束した。私は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は王の言うまま
になっている。私は、おくれて行くだろう。王は、ひとり合点して私を笑い、そうして
事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏
切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に
死なせてくれ。
不管怎么说是我输了。是我太过于散漫。尽管笑吧。国王曾悄悄对我说:来得迟一点。
并给我约定,只要来得晚,他就杀死那个替身,来救得我的生命。我憎恨国王的卑劣。然
而现在到了这个地步,我真的就如同国王所说的那样了。我会迟到。然后国王估计也就点
头笑笑,将我无罪释放吧。要是那样的,我真的比死还痛苦。我将永远的成为一名背叛者。
是世界上最没有信誉的人类。セリヌンティウス啊,那样的话我也去死,让我和你一起死
吧。
君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? あ
あ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。羊も居る。
妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、
愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法
ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、
勝手にするがよい。やんぬる哉(かな)。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでし
まった。
只有你才会相信我,一定是这样的。哦不,我又在自以为是了。啊……,我就索性作为
一名恶人苟活于世吧。村里还有我的家,有我的羊,妹妹他们夫妻俩总不能把我赶出村去
吧。正义、诚信、爱,这些东西想想真是无聊。牺牲他人而救活自己,这不正是人世间的
法则吗?啊……,这一切真是够愚蠢的。我是丑陋的背叛者。不管这么多了,随便了吧。我
不。梅洛斯这么想着,便摊开双手双脚,迷迷糊糊地打起盹儿来。
ふと耳に、潺々(せんせん)、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑ん
で耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、
岩の裂目から滾々(こんこん)と、何か小さく囁(ささや)きながら清水が湧き出てい
るのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬(すく)
って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。
行こう。肉体の疲労恢復(かいふく)と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の
希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。
忽然闻听到潺潺流水声,梅洛斯稍稍抬起头,倒吸了一口冷气,聆听着身边的情况。
一会好象觉得脚边有水流过。他摇摇晃晃地站起身来一看,原来是从岩石的裂缝里,像有
什么在窃窃私语般的涌出滚滚清水。梅洛斯像被这泉水淹没似的弯着腰。用双手捞起水喝
了一口。随后长吐一口气,仿佛是从梦中醒来。可以走了,去吧。伴随着体力的恢复,又
产生了微小的希望。这是去完成义务的希望。是去牺牲自己,而守护名誉的希望。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没まで
には、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待して
くれている人があるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死ん
でお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。い
まはただその一事だ。走れ! メロス。
夕阳将赤红的光芒投射在树叶上,树叶像是在燃烧似的发出耀眼的光芒。离日落还有
时间。有人还在等着我。这是毋庸置疑的。有人还在默默地期待着我。我是被信任着的。
我的生命根本就不算什么。以死来谢罪,这根本就行不通。我必须要回报他的信任。现在
能做的只有一件事。快跑!梅洛斯。
私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢
だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るも
のだ。メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れる
ようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。あ
あ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であ
った。正直な男のままにして死なせて下さい。
我是被信赖的。我是被信赖的。方才有个恶魔在我耳边嘀咕,那绝对是个梦。是个噩
梦。忘记他吧。一定是我过于疲劳,才会梦到的。梅洛斯!那不是你的耻辱。你仍然是一
名勇者。这不又能继续跑起来了嘛?真是值得骄傲呀!我现在就要作为一名正义之士来走
完我的最后一步。啊!太阳在下落,在渐渐地下落呀。请等等啊!宙斯之神!我自从出身
就是一个正直的人,就请让我作为一个正直的人死去吧。
路行く人を押しのけ、跳(は)ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で
酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴(け)と
ばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と
颯(さ)っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、
磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているの
だ。その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、
いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほと
んど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はる
か向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光って
いる。
梅洛斯推开路上的行人,连蹦带跳、疾步如风地跑着。在广阔的原野上有一场宴席,
他从宴席的正中间飞奔穿过。使正在享用宴席的人大吃一惊,他踢飞小狗,飞跃小河,梅
洛斯以比太阳下落快十倍的速度奔跑着。突然在与一群人擦身而过的时候,无意中听到了
一些不吉利的对话。“现在那个男人正在上刑了哟”啊,那个男人,我为了那个男人在如
此的奔跑。决不能让他死去。快!梅洛斯。不能够迟到。现在正要让他们知道爱与真诚的
力量。风度之类的东西,随他去吧。梅洛斯现在几乎是全身裸体。呼吸也变得极其困难,
接二连三的从口中吐出血来。看啊!远处已经能隐隐约约地看到希拉库斯市的塔楼了。塔
楼在夕阳的照射下闪闪发亮。
「ああ、メロス様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でござ
います。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でござ
います。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方(かた)をお助け
になることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうら
み申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかり
を見つめていた。走るより他は無い。
“啊,梅洛斯大人。”一个急促的声音,随着风吹进耳朵。
“是谁?”梅洛斯一边跑一边问道。
“我叫菲罗斯特拉脱斯。是你的朋友塞里努迪斯的徒弟。”这个年轻的石匠也跟在梅
洛斯的身后一边跑一边喊叫着“已经,已经来不及了。请不要再跑了。已经救不了他了。”
“不,太阳还没落下。”
“现在正好在执行死刑。你已经迟到了。真的,如果能再早点就好了!”
“不,太阳还没落下”梅洛斯满怀悲痛地望着夕阳。除了快跑别无他法。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの
方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、
さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけ
ている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは
問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいも
のの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、
間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。メロスの
頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられ
て走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした
時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
“请放弃吧。请不要再跑了。现在你自己的性命才是最重要的呀。他一直是相信你的。
即使被带到刑场,依然镇定自如。在国王狠狠地嘲笑他的时候,他也只是在回答着‘梅洛
斯会来的’,井然一副持有坚强信念的样子。”
“正因如此我才继续跑。正因为被信任着才要继续跑呀。是否能赶上,这不是问题。
性命也不是问题。我不由得为了更重要的东西去跑。跟上来!菲罗斯特拉脱斯”
“啊,你疯了吗?既然如此,那你就去跑吧。说不定还能赶上呢。去跑吧。”
话以至此,太阳还未落下。梅洛斯用尽最后一丝力气,拼命地跑。此时他的脑袋已经
一片空白。什么都不考虑了。就好象是被一股不知从哪来的力量拖着在跑。夕阳摇摇晃晃
地沉入了地平线,就在连最后一丝余光都消失的时候,梅洛斯疾风似地冲入了刑场。终于
赶上了!
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰
って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉(のど)がつぶ
れて嗄(しわが)れた声が幽(かす)かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着
に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、
徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだよ
うに群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにい
る!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆ
く友の両足に、齧(かじ)りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々
にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
“等等!别杀那个人。我回来了。按照约定回来了。”梅洛斯正想大声地对着刑场上
的群众喊道。可喉咙已经干枯,只能用嘶哑的声音微微叫出声来。可根本就没人注意到他。
已经绑在高高的柱子上竖立着的塞里努迪斯被缓缓地吊了起来。梅洛斯目击了这一切,鼓
足了最后的勇气,就像前面突破激流般的用手拨开了人群。
“是我!士兵,要杀的人是我梅洛斯!让他成为人质的我在这里呀!”
梅洛斯一边用嘶哑的声音拼命地叫喊着,终于抓住了随着邢台上升而被吊上去的朋友
的两只脚。人群一下子沸腾开了。纷纷叫喊着,啊!原谅他吧。绑住塞里努迪斯的绳子被
解开了。
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱい
に頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若(も)し私を殴ってくれなかっ
たら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、刑場一ぱいに鳴り
響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑(ほほえ)み、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった
一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなけ
れば、私は君と抱擁できない。」
メロスは腕に唸(うな)りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおい
おい声を放って泣いた。
“塞里努迪斯”梅洛斯含着泪说“请打我吧。用力打我的脸。我在途中做了个噩梦。
如果你不打我,我没有资格拥抱你。快打!”
塞里努迪斯似乎已经察觉了一切,点点头,高高呼喊着响彻整个刑场的声音,一拳打
在了梅洛斯的右脸上。而后又微微笑着说
“梅洛斯。用同样的力气也打我的脸。我在这三天里曾经一度怀疑过你。平生第一次
怀疑了你。你不打我的话,我也无法拥抱你。”
梅洛斯挥了挥胳膊,一声狂吼,打在了塞里努迪斯的脸颊上。
“感谢你!我的朋友”两人同时说着,紧紧地拥抱在了一起,伴随着高兴的泪水,放
声痛哭起来。
群衆の中からも、歔欷(きょき)の声が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後か
ら二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめ
て、こう言った。
「おまえらの望みは叶(かな)ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実
とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。ど
うか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
ひとりの少女が、緋(ひ)のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳
き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛
い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。
人群里也闻听到了哭泣的声音。暴君迪奥尼斯在人群的背后注视着他们两人,随后静
静地向他们走去,脸色赤红地说道
“你们都实现了对方的期望。你们战胜了我的心。诚实决不是空虚的妄想。怎么样啊?
能不能也让我成为你们的伙伴?怎么样?请听听我的愿望吧,我想成为你们的伙伴。”
突然群众之间欢声雷动。
“万岁!国王万岁!”
其中有一个少女将鲜红的斗篷献给了梅洛斯。梅洛斯有点不知所措。朋友啊,你教给
我如何体贴入微哟。
“梅洛斯,你可是一丝不挂哦,还是趁早把那个斗篷穿上吧。这位可爱的姑娘,也是
无法忍受让大家看到你的裸体呀。”
勇者此时也羞愧地满面赤红。
THE END
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